株主優待におけるクロス取引は違法なの?

株主優待を手に入れるためには、権利確定日に株を保有していることが必要です。権利確定日とは、その日に株主として株主名簿に記載されることにより、優待の権利を得られる日のことです。株主として記載されるためには、購入後3営業日の期間が必要です。従って、権利確定日までに保有するためには、権利付き最終日(=権利確定日の3営業日前)に購入しておく必要があります
こうした仕組みから株式市場では株主優待銘柄の株価は優待取りの需要から権利付き最終日に向けて堅調に推移し、権利落ち日(=権利付き最終日のよく営業日)以降は、優待取りの買い手の売却により株価が下落する動きが多々発生します。
そこで権利落ち日以降の優待銘柄の価格下落リスクを受けることなく、優待の権利を確保する取引手法として優待獲得におけるクロス取引を活用することが人気化しています。
ここで株主優待におけるクロス取引とは、信用売りを活用し、現物取引と信用取引を同時に行う取引手法です。具体的には、優待銘柄の権利付最終日までに「現物取引の買い」と「信用取引の売建」を同じ値段で同時に行い、権利落ち日に「現渡(げんわたし)」という方法で決済します。売りと買いを両建てすることで株価の変動リスク無しに優待を獲得できます。
クロス取引自体は取引手法として認められており、法令上禁止されているわけではありません。法令上違法な取引は、株価を変動させたり、実際以上に取引が活発だと他人に誤解を与えることを目的としたクロス取引(金融商品取引法上の仮装売買)です。
以上より、株主優待におけるクロス取引は株主優待を得ることを目的として行うクロス取引であることから、法令的には適法なクロス取引と言えます。では、そのような株主優待を獲得するクロス取引はいかなる場合にも適法取引で違法なクロス取引に該当することはないのでしょうか。
優待の獲得において「他人に誤解を与えることを目的とする意図がない場合」でも、取引を行った結果が、特定の優待銘柄の売買の市場占有率、クロス取引の反復性、取引に伴う株価変動など、客観的に見て他者が対象銘柄の出来高が増加したと誤解しかねない状況と認められる場合には仮装売買と判断され、違法なクロス取引に該当する場合があることに注意する必要があります。
なお、違法となるクロス取引の判断基準である市場占有率、反復回数、価格変動幅等の具体的な基準は行政当局である証券取引等監視委員会からも正式に具体的な定量的な基準は示されておらず、適法か違法かの境界線は曖昧でグレーとも言えます。(違反事例が個別に公表されている状況です。)

クロス取引を始める前に抑えるべき点

株主優待におけるクロス取引の注意点は2点あります。先ずは仮装売買と判断されることがない取引を行うことです。株主優待取りという明確な目的を持った取引であっても、直近公表値から大きくかい離した値段で取引を行うことは意図的に株価を動かす意図があると解せられ、他の投資家に誤解を与える可能性があります。従って、寄付き又は後場の寄付きで1回限りで売買両方の注文を成行で行う等市場に与える影響を配慮した取引を行うことが必要です。
更に重要な注意点としては株主優待におけるクロス取引は信用売りを活用することから、制度信用銘柄の優待銘柄に逆日歩(制度信用取引において、売り手が買い手に支払う追加の貸株料のこと)が発生する場合に受取る優待と比較して予想外の高額なコストを払って優待を受取るリスクがある点です。
逆日歩は「1株あたり1日につき○銭」という形式でかかります。例えば、100株単元の銘柄に50銭がついている場合、売建てている投資家は100株で1日につき50円の逆日歩を支払うこととなります。また、この逆日歩の注意点は、いくら必要か実際に確定するのがクロス取引を行った翌営業日となる点です。つまり、逆日歩がいくらかかるのか分からない状態で取引を行うことになり、逆日歩の状況次第で高額となる場合もあり、過去には銘柄によっては株主優待のメリットが吹き飛ぶほどの負担となる事例が実際に発生しております。
信用取引の売残・買残を確認し過去の逆日歩を調べるなどして、逆日歩がつきにくい銘柄、或いは、逆日歩の仕組みや計算方法について理解しておき、事前に逆日歩の最大金額を計算して、逆日歩を差し引いても優待を取るメリットのある銘柄を選んで取引を行なうことでこうしたリスクを避けることができます。